


噂には聞いていた。
メガネの三城の交差点を東に進んで、突き当たりを右に曲がって、ずーっと真っすぐ行くと石垣があって、そこをぐにゃりと左に曲がる。
宇和島に来てもうすぐ1年経つが、こんなところに来るのは初めて
市内より少し小高いところにあるのどかな住宅街にcafe「和(なごみ)」はひっそりと佇んでいた。
店の前には沢山の花が飾っている。
昼過ぎの店内には丸い窓から柔らかい少し傾いた太陽が入ってくる。
空気中の微粒子がゆっくりと彷徨っている。
誰もいない。
ここの時間は普段の何倍にもゆっくり流れている。
土間、板の間、立派な梁、日本建築に必要な物がそこにはある。
違う物と言えば、かまどがあるであろう場所に立派なカウンターとコーヒーを入れる機械が置いてある。
しばらくするとオーナーが出て来た。
もう3時頃だというのにモーニングOKというので、それを注文した。
幸い他にお客さんがいなかったので、オーナーにいろいろと話を聞くことが出来た。
オーナーは定年退職後しばらくは友達と喫茶店でぶらぶらして時間を過ごしていたそうだ。
初めのうちはそれで良かったが、しだいにこれじゃつまらないなと思うようになった。
ふと喫茶店なら自分にも出来るかもしれないと思い立った。
ちょうど家の隣のこの物件が売りに出されていた。
もと酒屋さんだったこの建物は、その昔は鉄砲鍛冶屋だったらしく、とても古くボロボロだった。
建築家の人にこの場所で喫茶店を出来ないかと相談したら、人通りのないこんな場所では流行らないよ辞めときなさいと言われた。
しかし、諦められずいると、若い建築家の人が、「おもしろい、僕がやりましょう。」と手を挙げてくれた。
そうこうしているうちに店はできたけれど、実はコーヒーなど入れたこともなかった。
だからコーヒー教室に何回か通った。
なんとかコーヒーを入れられるようになったけれど、今も詳しくない。
2種類しか置いていないのはそのせいです。
以前お客さんに、「レモンティーを下さい。」と言われ、「置いていません。」と答えた。
レモンティーとは紅茶にレモンを入れる物だと知らなかったのだ。
そんなこともあった。
それでも、もう6年間やっています。
と笑顔で教えてくれた。
店内に沢山飾ってある花々は全てお客さんが持って来てくれるそうだ。
お客さんの8割が同年代らしい。
お客さんに愛されている店。
机の上にはニコリとしたお地蔵さんがある。
ある施設の作家さんの作品だそうだ。
オーナー、建物、花、お地蔵さん、食器・・・全てが優しく、全てがこのゆっくりとした空間を作り出し、来る者を癒してくれる。
癒しが欲しい方、是非1杯いかがですか?